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BUNTABI Project

BUNTABI = 文旅 / 偉大な文筆家たちの美しい文章を通じて、過去の日本を旅するProject

琵琶湖

場 所:滋賀

作 者:横光利一

作 品:琵琶湖

初 出:不明

季 節:夏

 

舟に灯籠をかかげ、湖の上を対岸の唐崎まで渡って行く夜の景色は、私の生活を築いている記憶の中では、非常に重要な記憶である。ひどく苦痛なことに悩まされているときに、何か楽しいことはないかと、いろいろ思い浮かべる想像の中で、何が中心をなして展開していくかと考えると、私にとっては、不思議に夜の湖の上を渡って行った少年の日の単純な記憶である。これはどういう理由かよくは分からないが、油のようにゆるやかに揺れる暗い波の上に、点々と映じている街の灯の遠ざかる美しさや、冷えた湖を渡る涼風に、瓜や茄子を流しながら、遠く比叡の山腹に光っている灯火をめがけて、幾艘もの灯籠舟のさざめき渡る夜の祭の楽しさは、暗夜行路ともいうべき人の世の運命を、漠然と感じる象徴の楽しさなのであろう。

 

(一言)

ネット検索した限り、現在の琵琶湖の夏祭りでは灯籠舟は使われていないようだ。

 

(関連リンク)

横光利一 - Wikipedia