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BUNTABI Project

BUNTABI = 文旅 / 偉大な文筆家たちの美しい文章を通じて、過去の日本を旅するProject

場 所:長野

作 者:新田次郎

作 品:山の歳時記

出版年:1963年頃

季 節:夏

 

子どもの頃私は峠に立つと必ず放尿した。峠で放尿すればいいことがあると私に教えてくれたのはその頃の村の餓鬼大将の少年だった。私たちは大将に命ぜられるままに、どんないいことがあるかも聞かずに筒先を揃えて放尿したものである。中学生になってからである。数人の学友と、夏休みに諏訪から塩尻峠を越えて松本まで歩いたことがある。今のようにむやみやたらと自動車が通らないからなかなか快適な旅行だった。この時も私はこの峠の頂上で仲間達と揃って放尿した。ここで放尿すれば、それはやがて日本海と太平洋に分かれて流れこむのだという理屈をつけていた。確かに、諏訪側へ流れる水は天竜川へ入り太平洋にそそぎ、松本側へ下れば犀川を経て信濃川に吸収され、やがては日本海へ流出する。その時のよく澄んだ青空と蝉の声が今もなお私の印象に鮮明である。

 

(一言)

高所からの放尿は男の密かな楽しみである。